映画の国としてのニュージーランド
映画「エイリアン」とNZの関係 日本でもうすぐ公開の「エイリアン・コヴェナント」はシリーズ6作目。第1作目と前作監督のリドリー・スコットが今回もメガホンをとりました。制作にNZが関係していると聞き、特撮満載映画なのでWETAスタジオが特撮担当と思いきや、今回はロケ地のみNZということのようです。ちなみに、シリーズ2作目「エイリアンズ」は「タイタニック」や「ターミネーター」あるいは「スパイダーマン」シリーズでも知られるジェームズ・キャメロン監督作品ですが、キャメロン監督は1994年に初めてNZを訪問して以来、すっかりNZの魅力に取りつかれていたようで、インタビューにも「NZの人々は物欲的でなく、とても健康的な生活をしている」という発言もしています。そして2014年にはNZに移住してきました。
NZ映画、日本との関係は? 世界中に(というよりも、日本よりむしろ海外で)根強いファンがいることで知られる日本アニメ作品「ゴースト・イン・ザ・シェル(原題:攻殻機動隊)」の実写版がさる4月に公開されました。スカーレット・ヨハンセン主演(ビートたけしも出演していますね)の近未来アクションものですが、特撮部分はウェリントンのWETAスタジオによる制作でした。映画に出てくる退廃的な近未来都市は、ウェリントンをベースに香港や東京、それにオリジナルイメージを組み合わせて出来上がったもので、ウェリントンを知っている人が見ると「なんとなく」見知っている建物や風景が登場するのも、この映画を観るちょっとした楽しみになるかもしれませんね。
大島渚監督の名作「戦場のメリークリスマス(1983年)」の撮影地はなんとNZ(とクック諸島)! デビッド・ボウイと坂本龍一、ビートたけしの共演には驚かされた覚えがあります。2012年に制作された「エンペラー(邦題:終戦のエンペラー)」はこれも太平洋戦争ものですが、トミー・リー・ジョーンズがダグラス・マッカーサーを演じたハリウッド大作。史上初めて皇居敷地内をロケとして使用したことでも知られます。ほとんどの撮影・制作はNZで行われました。「ロード・オブ・ザ・リングス」や、2003年制作の「ラスト・サムライ」以降、日本でも「映画の国」としてのニュージーランドが知られるようになってきましたが、日本映画をNZで撮影する、制作するというのはまだまだありません。2007年に手塚治虫作品の実写映画「どろろ(2007年)」が撮影されたぐらいでしょうか。
NZ作家が日本人を題材にしたユニークな作品もありました。国際的に高い評価を得た「ホエール・ライダー(邦題:クジラの島の少女)」のニキ・カーロ監督は処女作として「Memory & Desire」という映画を制作しました(1998年)。ある日本人カップルが新婚旅行でNZを訪れたものの新郎が謎の死を遂げてしまうのですが、残された新婦は心の整理がつかず帰国もできずに、夫が溺死した近くの洞窟に独り暮らし続ける、という暗く、悲劇的な内容でした。
また、これは映画ではありませんが、映像制作において日本との長い関係にある作品があります。「ゴレンジャー」で知られる「スーパー戦隊」ものは1980年代に海外進出をはたし(海外向けに日本で使用された脚本を元に、海外で再制作されています)、「パワーレンジャー」として子供達に大人気ですが、現在制作は全てオークランドやその近郊で行われています。今年3月には映画も制作され、全米公開もされました。
撮影地や特撮編集だけでない、制作国としてのNZ 何と言ってもアカデミー賞3部門受賞した1993年のジェーン・カンピオン監督「ピアノ」はNZ映画を語るとき外せません。映像美やNZ独特の美的センスや感情表現など、アメリカでもイギリスでもない「ニュージーランド」の世界観が垣間見える作品と言ってよいでしょう。また1994年の「Heavenly Creature」では「ロード・オブ・ザ・リングス」などの特撮大作に取り組む前のピーター・ジャクソン監督の映像美を楽しむことができます。同じく1994年に制作された「Once Were Worriors」は、NZが先住民問題を未だ抱えた国だということを世界に知らしめた問題作でもありました。
南のハリウッド 「ロード・オブ・ザ・リングス」以来、ハリウッドの仲間入りしたWETAスタジオのおかげで、NZは「映画の国」としての地位を確立することができました。そのため、映画スターも撮影のためにNZに集まってきます。TVシリーズ「24」で有名なキーファー・サザーランドが映画「リバー・クイーン」主演のために、パーマストンノースからほど近いワンガヌイでの撮影のために長期滞在していたり、パーマストンノースから車で1時間半ほどの小都市マスタートンで、ジェームズ・キャメロンを訪ねたケイト・ウィンスレットが買い物を楽しんだりと、南の小国にも関わらず、ハリウッド的なニュースが多いのも、映画の国としてのNZの顔のひとつなのです。
主なヒット作品(NZで撮影、制作、編集のいずれかが行われたもの): 「サンダーバード(2015)」TVシリーズ 「ホビット(2012-14)」シリーズ 「猿の惑星(2012)」 「タンタンの冒険(2011)」 「アバター(2009)」 「キング・コング(2005)」 「ナルニア国物語(2005)」 「レジェンド・オブ・ゾロ(2005)」 「ラスト・サムライ(2003)」 「ピーターパン(2003)」 「ロード・オブ・ザ・リングス(2001-03)」